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Inco Networkとは|仮想通貨の残高を隠す秘匿トークンcTokenの使い方と手数料

Inco Networkは、Baseなどの既存のブロックチェーンに後付けして、トークンの残高と送金額を隠す秘匿レイヤーです。新しいチェーンではなく、いま使っているウォレットのままBase上のUSDCなどのERC-20を包んで秘匿版にできます。2026年6月にBaseメインネットで稼働し、9月には一般向けのcTokenアプリが公開されました。自社トークンは未発行で、エアドロップの公式告知もありません。

Inco Networkとは|Base上の秘匿レイヤー

Incoはincognito(お忍び)の略で、既存のチェーンに秘匿性を足す層です。公式トップは「ユーザーがいる場所へプライバシーを届ける」と掲げ、新しいチェーンやウォレットへの乗り換えを求めません。

画像:Inco公式サイトのスクリーンショット(2026年10月27日撮影)

項目内容
チェーンBaseメインネット・Base Sepolia(Solana devnetはベータ)
ステージ2026年6月15日にBaseメインネットで稼働・cTokenは9月2日公開
トークン未発行

公式トップのFAQには「Base Sepoliaテストネットで稼働中」という古い記述が残っており、トップだけ読むと誤解しやすい点に注意が必要です。

Inco LightningとcToken|2つの製品

開発者向けのInco Lightningは、Solidityのコントラクトにライブラリを1行読み込むだけで使える部品です。暗号化された値(euint256などの暗号化型)をそのまま足し算や比較にかけられます。一般向けのcTokenは、Base上のERC-20を包んで秘匿送金から元に戻すアンシールドまでブラウザで行うWebアプリです。個人がIncoに触れる入口はこちらです。

秘匿トークンの仕組み|TEEで何を隠すか

秘匿トークンといっても取引のすべてが見えなくなるわけではなく、cTokenが隠すのは残高と送金額だけです。

cTokenで隠れるもの・公開のままのもの

隠れるのは各アドレスのcTokenの残高と1回の送金で動いた金額です。送る側と受け取る側のアドレスや送金があった事実は、これまでどおり誰でも見られます。残高は本人がRevealを押したときだけ表示されます。

画像:Inco公式docsより(2026年10月27日取得)

Inco LightningのTEE復号網はどう動くか

残高を隠したままの足し引きや比較は、TEE(CPUの中に作る隔離された実行領域)の中で計算されます。利用者側のSDKが入力を暗号化して「handle」という参照を受け取り、コントラクトはそのhandleに対して足し算や比較を呼ぶだけです。実際の計算はTEEの中で動くConfidential Compute Serverが担い、チェーン上のイベントを監視して結果を直接返します。

画像:Inco Lightning製品ページのスクリーンショット(2026年10月27日撮影)

平文に戻す経路は3つあり、どれも復号網がe.allowで与えられた許可を確かめ、各ノードが返す署名付きの証明をコントラクトが検証してから平文を使います。

Zama・Railgunと何が違うか

同じ「残高と金額を隠すトークン」でも、何を信頼の前提に置くかで方式が分かれます。ZamaやMind Networkが使うFHE(完全準同型暗号)は暗号化したまま計算する方式です。ZamaのcUSDTは2026年9月中旬までに累計1億3,130万ドル分がシールドされました。ただしFHEの秘匿送金は通常のERC-20送金よりガスが高く、Zamaでは手数料をZAMAトークンで払います。

Railgunはzk-SNARK(ゼロ知識証明)を使うUTXO型の方式で、対応チェーンにBaseは挙がらず、規制当局向けの閲覧鍵も持ちません。

Incoは数学的な保証の代わりにTEEというハードウェアの隔離を信頼する方式で、手数料はBaseのETHのまま、ウォレットも既存のまま使えます。

cTokenの使い方|必要なものと手数料

cTokenアプリ(ctoken.inco.org)は招待制ではなく、ウォレットをつなげば誰でも使えます。

画像:cToken公式アプリのスクリーンショット(2026年10月27日撮影)

操作は、手持ちのERC-20を包んでcTokenにするシールド、金額を隠して送る秘匿送金、元に戻すアンシールドの3種類です。

始めるのに必要なもの(ウォレット・BaseのETH)

用意するのは、いま使っているEVM系のウォレット、Baseメインネット上のETH、包みたいBase上のERC-20の3つです。初回は「CToken - Terms Acceptance」というメッセージにウォレットで署名すると、利用規約への同意が記録されます。

KYC(身分証の提出)はなく、18歳以上で制裁対象国やFATFハイリスク国の居住者でないことを自己申告する形ですが、地域によってはIPアドレスで利用が制限されることがあります。テストネット版(ctoken.testnet.inco.org)なら、faucetのUSDCやUSDTで同じ操作を無料で試せます。

Baseで秘匿送金するときの手数料

Incoの手数料は、暗号化した入力をチェーンに取り込む操作と乱数の生成などにかかり、BaseではETHで払います。金額は都度getFeeで取得する仕組みで、公式の例示値は0.000001 ETHです。足し算や比較などの演算は無料で、かかるのは通常のガスだけです。cTokenでは秘匿送金にこのネットワーク手数料とBaseのガスがETHでかかり、シールドとアンシールドはガスだけです。

Incoの上で触れるアプリと利用の実数

Incoの上で個人がいま触れるものと、その使われ方の実数です。

cTokenはどれだけ使われているか

公式のインデクサ(チェーン上の記録を集計するAPI)で見ると、2026年10月27日時点でBaseメインネットのラッパー(包まれたトークンの種類)は118本で、うち92本に何らかの動きがあります。cUSDCに絞ると、包まれた累計は約43,079 USDC、戻された累計は約42,999 USDCで、差し引き約80 USDCしか秘匿されたまま残っていません。公開側の記録4,734件に現れた固有のアドレスは454です。cUSDC以外のラッパーの多くはミームトークンです。

触れるデモと統合先(Prism・Celo)

個人が触れるのは公式デモ集Inco Arcade(experiences.inco.org)で、決済向けの統合先はまだテストネット段階です。

アプリ何ができるかいま使えるか
cToken(公式アプリ)ERC-20のシールド・秘匿送金・アンシールドBaseメインネット・ガスは自己負担
Hangman暗号化した単語を当てるゲームInco Arcadeから無料・ウォレット接続後
Prismベトナムの銀行QRで外国人が支払える決済アプリBase Sepoliaのみ

Prismのメインネット対応は、2026年7月15日の発表から「very soon」のままです。Celoはテストネットの限定ベータでステーブルコインの秘匿送金を目指し、Tokuとのステーブルコイン給与の秘匿化は発表済みで稼働前です。

これらを合わせると、cTokenの使われ方は今のところ「包んで、送って、すぐ戻す」試用が大半で、残高を秘匿したまま持ち続ける利用はほとんど始まっていません。秘匿が本当に効く給与や決済の用途は、いずれもテストネットか稼働前で、メインネットのcTokenにはまだ流れていません。次に確かめたいのは、cUSDCの包まれた累計と戻された累計の差が広がり始めるか、Prismがメインネットで動き出すかの2点です。

Incoを使う前に確認すべき危険性

「匿名のコイン」のつもりで使うと、発行体による凍結、当局への情報開示、TEEへの信頼の3点で想定とずれます。

発行体による凍結とブロックリスト

cTokenはいつでも元に戻せますが、元のトークンの発行体(Asset Issuer)は、資産の凍結、特定アドレスのブラックリスト登録、移転の制限といった権限を持ち続けます。実際にcTokenのファクトリ(ラッパーを作るコントラクト)はブロックリストが有効な状態で配備されています。

当局への情報開示と運営主体

秘匿されるのはチェーン上の残高と金額で、運営に対する匿名性ではありません。Incoは当局や法執行機関にIPアドレスなどを含む利用者の情報を開示することがあります。ベータ段階のサービスは実験目的で動作の保証はありません。運営主体は米マイアミに住所を置くLiquidbox Corp(Inco名義で事業)です。

TEEへの信頼と監査の公開状況

Baseメインネットでの復号は、検証済みの証明を持つTEEベースの復号ノードの集まり(quorum)が担います。安全性の根拠は数学的な証明ではなくハードウェアとノード運用者への信頼です。公式はTrail of Bitsの監査を受けたと述べていますが、公開されたレポートは見当たりません。復号ノードを誰が何台運用しているかもdocsには書かれていません。

Inco Networkの資金調達とトークンの現状

出資者と創業者、そして2024年に報じられたINCOトークンの行方です。

投資家と創業者Remi Gai

項目内容
創業者Remi Gai(Founder)
シード450万ドル(2024年2月)・1kxがリード。Circle Ventures、Alliance DAO、Polygon Venturesなど
戦略ラウンド500万ドル(2025年4月)・a16z Crypto Startup Accelerator(CSX)がリード。Coinbase Venturesが新規参加
アドバイザーRand Hindi(Zama CEO)、Mike Mosier(元FinCEN/OFAC)など

Remi Gaiは2025年4月の調達発表で、スケーラビリティやチェーン抽象化が解決した今、ブロックチェーンに残る最後の課題は秘匿性だと語っています。

2024年のFHEチェーン構想からの変化

2024年2月のシード調達のころ、IncoはCosmos SDKで作るFHE(完全準同型暗号)のチェーンを、EigenLayer経由のETHとINCOトークンの二重ステーキングで守る構想でした。2025年4月24日にTEEベースのInco LightningをBase Sepoliaで公開しました。同じ週にはOpenZeppelin・ZamaとConfidential Token Associationを設立しています。

Incoのエアドロップとトークンはあるか

2024年2月のシードはSAFEにトークンワラント(将来トークンを受け取る権利)が付いた形で、当時はINCOトークンをステーキングに使う計画が報じられました。しかし2026年10月27日の時点で、公式サイト・docs・ブログ・規約のどこにもエアドロップやポイント、トークン配布の告知はなく、トークン自体も発行されていません。CoinGeckoにInco Networkのトークンは登録されておらず、ティッカーINCOに当たるのはBSC上のInfinitiCoinという無関係の銘柄です。

まとめ

Inco Networkは、Base上のERC-20を包んで残高と送金額だけを隠す秘匿レイヤーです。cTokenアプリはウォレットをつなげば今日から使えます。ただし使われ方はまだ「包んで戻す」試用が中心で、統合先はテストネット止まり、トークンもエアドロップの告知もありません。秘匿の根拠がTEEへの信頼で、発行体の凍結権が残ることを踏まえて、少額のUSDCで秘匿送金を一周してみるか、統合先のメインネット対応を待つかを決める段階です。

出典

  1. Inco公式(2026年)
  2. docs: Intro(2026年)
  3. Blog: mainnet(2026年)
  4. Blog: cToken(2026年)
  5. docs: cToken(2026年)
  6. docs: Components(2026年)
  7. docs: Decryption(2026年)
  8. Crypto Briefing(2026年)
  9. Zama: ERC-7984(2026年)
  10. ETH Systems: Railgun(2026年)
  11. docs: Transactions(2026年)
  12. docs: Indexer(2026年)
  13. Inco利用規約(2026年)
  14. docs: Fees(2026年)
  15. Indexer: tokens(2026年)
  16. Indexer: cUSDC flows(2026年)
  17. Indexer: factory(2026年)
  18. Blog: Prism(2026年)
  19. Blog: Celo(2026年)
  20. Blog: Toku(2026年)
  21. Blog: Seed(2024年)
  22. Blog: Strategic(2025年)
  23. Inco About(2026年)
  24. The Block(2024年)
  25. Blog: 2025 Roundup(2025年)
  26. CoinGecko(2026年)

免責事項

  • ・本記事は情報提供のために作成されたものであり、暗号資産や証券その他の金融商品の売買や引受けを勧誘する目的で使用されたり、あるいはそうした取引の勧誘とみなされたり、証券その他の金融商品に関する助言や推奨を構成したりすべきものではありません。
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この記事を監修した人

新井 進悟

新井 進悟

株式会社ロクブンノニ 代表取締役

2013年に東京理科大学大学院(経営工学専攻)修了後、Web・アプリ・広告業界の複数社でエンジニア、データサイエンティスト/データアナリストとして従事。2017年頃から仮想通貨・ブロックチェーン領域に携わり、2018年1月に株式会社ロクブンノニを設立、同年2月にブロックチェーン特化型メディア「Crypto Times」をローンチ。業界歴は約9年。DeFi・L1/L2プロトコル・トークノミクス・ZKP・国内外の規制動向を専門領域とし、自身でもオンチェーンでの資産運用・リサーチを日常的に行う。数百本以上の記事執筆・監修を担当し、国内外カンファレンス登壇、DeFi資産運用セミナー講師、KOLアンバサダープログラム運営など実績多数。

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